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子どもの病気・トラブル

2023/09/29

【体験談あり】起立性調節障害とは?
症状や原因、保護者ができることを医師が解説

朝起きられない 起立性調節障害の症状や原因、治療法 医師監修

「中学に入ってから、朝起きると頭痛やめまいがする、と訴えるようになって遅刻が増えた。小学校時代はパッと起きていたのに……」
思春期のお子さまにこんな変化がみられたら、「起立性調節障害」の症状かもしれません。
2000年代から認知されるようになってきた起立性調節障害について、大阪医科薬科大学病院小児科医の吉田誠司(よしだせいじ)先生に、症状や原因、治療法、予防法などを解説していただきます。
お子さまのようすをみて思い当たるところがあれば、受診の目安や生活上の注意点を参考にしてください。

監修者

よしだ せいじ


大阪医科薬科大学病院小児科で心身症外来を担当。2005年、大阪医科大学(現大阪医科薬科大学)卒業。2014 年、起立性調節障害に関する研究で医学博士号取得。子どものこころ専門医・指導医、漢方専門医などの資格をもつ。著書に『起立性調節障害お悩み解消BOOK 「朝起きられない」子に親ができること!』(翔泳社)、『10代のためのココロとカラダの整え方 自分でできる&ラクになる自律神経コントロール』(監修:メイツ出版)など。

起立性調節障害とは?症状や原因

起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:通称OD)は、思春期(小学校高学年~高校生)に多い病気です。
起立性調節障害のお子さまは「朝起きられない」と訴えるケースが多いため、周りからは「夜更かししているだけでは?」「学校に行きたくないんでしょ」などと誤解されがちです。
しかし、起立性調節障害は体の病気であり、罹患したお子さまはさまざまな症状でつらい思いをしています。
まずはよく見られる症状や原因を正しく知っておきましょう。

起立性調節障害の症状

最も多い症状が、朝、ふとんやベッドから立ち上がるときに起こる頭痛やめまい、立ちくらみ、倦怠感などです。
この症状が出るせいで、朝起きるのがつらいと感じるお子さまが多くみられます。
症状は1日中続くわけではなく、午後になると回復することが多いのも特徴です。
時期的には、梅雨から夏にかかるケースが目立ちます。
小学生までは何ともなかったのに、思春期に突然症状が現れるケースが多いため、お子さまも保護者のかたも非常にとまどいます。

起立性調節障害の原因

起立性調節障害は、おもに自律神経のバランスの乱れがきっかけとなって起こります。
朝、起き上がるとき、血液は上半身から下半身に移動します。
しかし自律神経がうまく働かないと、足の血管が十分に収縮せず、血液が上半身に戻りにくいのです。
そのため、血圧の低下や脳の血流不足が起こり、頭痛やめまいなどさまざまな症状が現れます。
自律神経の不調が起こる原因は明らかになっていませんが、ストレスや不規則な生活がきっかけになりやすいといわれています。
なお、遺伝などでもともと低血圧の人が発症するケースもよくみられます。
性格的な傾向としては、心理学用語で「過剰適応」(環境や周りの人の意向に合わせて、無理してでも頑張ること)といわれるタイプのお子さまに多いようです。

起立性調節障害の診断

お子さまのようすをみて「起立性調節障害かも?」と感じたら、まずは下記のチェックリストで当てはまる項目がいくつあるかをチェックしてみましょう。
11項目の中で3項目以上当てはまるなら、起立性調節障害の可能性があるので、小児科の受診をおすすめします。
小児科では、横になっているときと立ち上がったときの血圧・心拍数がどれだけ変化するかをもとに診断が行われます。
1.立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
2.立っていると気持ちが悪くなる。ひどくなると倒れる
3.入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
4.少し動くと動悸あるいは息切れがする
5.朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
6.顔色が青白い
7.食欲不振
8.臍疝痛(さいせんつう※)をときどき訴える
9.倦怠感あるいは疲れやすい
10.頭痛
11.乗り物に酔いやすい

出典:(『小児起立性調節障害診断ガイドライン 改訂第3版』日本小児心身医学会,2023)

※臍疝痛:おへその周囲の痛み

保護者や周囲の理解がカギ 起立性調節障害の治療と予防

起立性調節障害の治療や予防には、医療だけでなく、周りの人の理解・協力も欠かせません。
まずは保護者のかたが治療・予防法について正しく知り、必要に応じて周囲と共有しましょう。

まず保護者ができることは「病気を正しく知る」

治療は、まず保護者のかたや学校の先生、クラスメートなど周囲の人が、病気について正しく理解するところから始まります。
ただ、起立性調節障害は見た目の症状があまりなく、午後になると回復するため、学校側からも「朝起きられないのは怠けているからでは」などと見られてしまう可能性もあります。
病気そのものは1980年代から少しずつ知られるようになりましたが、症状の現れ方は不登校の子どもの特徴と似ているため、2000年代前半までは「起立性調節障害=不登校」と誤解されがちでした。
2006年にガイドラインが示されてからは周知が進みましたが、それでもまだまだ不十分です。
医師から診断を受けたら、診断書を見せるなどして学校の先生に報告し、病気について知ってもらいましょう。
「怠けているのではなく体の病気だ」「本人が一番つらいのだ」と周囲の人が知ることで、お子さまのストレスはかなり減るはずです。

起立性調節障害の治療

治療は、非薬物療法(薬を用いない治療)と薬物療法(薬を用いた治療)の2種類に大きく分けられます。
●非薬物療法
■自律神経バランスを整える
起立性調節障害は自律神経の乱れから発症するので、非薬物療法では自律神経バランスを整えることを重視しています。
具体的には、規則正しい生活を徹底し、症状のない夕方などにウォーキングや水泳などの運動を取り入れてもらいます。
また、ストレスがあると自律神経バランスが崩れやすいので、「どうすればストレスがたまらないか」を自分なりに知って対処することも大切です。
■水分・塩分をしっかりとる
1日1.5~2リットルをめやすに、水やお茶などの水分をしっかりとることも大切です。
起立性調節障害の患者さんの中には、1日0.5~0.6Lしかとっていないお子さまも珍しくなく、いきなり1.5 Lまで増やすのは難しいので、少しずつ分量を増やしてもらいます。
水分だけでなく塩分をとることも大切です。塩分をとっていないと、水分が血管内に入っていかないからです。
塩分量のめやすは、1回の食事につき「1gの食塩をプラス」と考えておくとよいでしょう。
なお重症の患者さんに対しては、心理カウンセリングを行う場合もあります。
どんな内容で行うかは医療者の考え方によって異なりますが、私は患者さんに安心感を与えて自己効力感・自己肯定感を高めてもらうことに重点を置き、「今はつらくても、できることから少しずつ頑張ることで、必ず困難を乗り越えられるよ」とメッセージを送るようにしています。
●薬物療法
非薬物療法で効果がない場合は、薬を使った治療もあわせて行います。
患者さんに、血圧を上昇させるための薬(ミドドリンやアメジニウムなど血管を収縮させる作用をもつ薬)を出して、症状が出やすい午前中に飲んでもらいます。
ただ、体内に水分が十分でないと血圧が上がりにくいので、1日1.5〜2 Lの水分をとることで初めて薬の効果が期待できます。
なお、患者さんの状態を見ながら「小建中湯」(疲れやすく、頭痛や腹痛などの症状があるお子さまに向いているとされる)などの漢方薬を出すケースもあります。

起立性調節障害の予防・再発防止

起立性調節障害は自律神経の乱れから起こりますが、そのきっかけになるのは運動不足や不規則な生活、ストレスなどです。
ですから予防や再発防止のためには、規則正しい生活や適度な運動、よい友人関係づくりが大切です。
低血圧のお子さまは特に、起立性調節障害を予防する生活を心がけてほしいと思います。
なお今のお子さまは、放課後も部活や学習塾、習い事などで忙しく過ごしている場合も多く、自分でも気がつかないうちにからだの疲れがたまってしまっている可能性も。
ご家庭では食事と睡眠をしっかりとって毎日生き生き過ごせているか、保護者のかたが気を配ってあげるとよいでしょう。
患者さんの中には、中学・高校受験を控えたお子さまもいらっしゃいます。
進学先を検討するにあたって、「起立性調節障害の症状が現れたときに対応してくれるのか」を一つの判断基準として加えたいところです。
学校見学などの機会を活用して、積極的に質問するとよいでしょう。

【体験談】起立性調節障害をどう乗り越えた?

日本小児心身医学会は、中学生の約10%に起立性調節障害(軽症を含む)があるといいます。
しかし、実際に診察を受けないお子さまも多いため、起立性調節障害の患者さん本人や保護者のかたから実際にお話を聞く機会はなかなかありません。
そこでここでは、起立性調節障害のお子さまがいらっしゃる保護者のかたの体験談と、吉田先生が担当された患者のかたの事例をご紹介します。

中学2年生女子 C・Sさん(仮名)の場合

保護者「娘は中2でODと診断されました。
中2の1学期は、朝から登校できる日がほとんどなく、午後の授業から出席したり、オンラインで参加したりしてなんとか勉強についていこうとしていました。
筋肉の緊張を和らげる薬や血圧を上げる薬を飲んでいますが、なかなか症状は改善しません。
娘自身も、学校に行けないことに強い不安があり、ストレスを感じているようです。
病院では「ストレス発散が大切」といわれているので、一緒に夜の散歩に出かけたり、休日にショッピングモールに出かけたりして息抜きをしています。
体調がよいときには、一緒に家事をすることもあります。
娘のサポートをするのは大変で、正直気持ちがささくれ立ってケンカになってしまう日もありますが、親子で気長に病気と向き合っていこうと思っています。」

吉田先生が診察した患者Bさん(仮名)の場合

吉田先生「中学2年生の6月の梅雨時から起き上がった時に頭痛とめまいがして、学校を遅刻したり休んだりしてしまう日があったそうです。その後も症状は改善せず、7月からはほぼ学校に行けない状態になり、近くの小児科を受診して起立性調節障害と診断。血圧をあげる薬を処方されたが、学校に行けるまでの症状改善はなく、二学期以降も学校に行けない状況に。起床困難や倦怠感で家から出られない状態にまでなってしまい再度受診されました。
まずは起立性調節障害について病気の仕組みを説明し、気持ちの問題ではなく体(自律神経)の病気であると伝えました。
次に自律神経を整える方法をBさんと一緒に話し合いました。自律神経を整えるために規則正しい生活を送ることはとても大切です。Bさんに就寝・起床時間の目標をたててもらい、それを目安に一日のスケジュールを検討しました。起床時の家族からの声掛けは、Bさんが希望するなら目標とした起床時間に声を掛けてもらうよう、家族のかたにお願いしました。
水分は1日500ccしか飲めていなかったので、1.5〜2Lが目標ではありますが、まずは1 Lを目標に設定。また、身体機能を回復させるためには適度な運動も大切であり、体調が落ち着く夕方に15 分程度散歩するよう伝えました。
その後、症状は徐々に改善傾向となり、昼からの登校は可能な状態に。
Bさんにはスモールステップで実現可能な目標を立ててもらい、家族はその目標を共有しBさんの希望を聞いてサポートすることをお願いしました。
家族の関わりとして大切なことは、お子さまのつらさを理解し、頑張れているところを褒めて、お子さまを信頼して支えてあげることです。そしてそれはお子さまの自己肯定感や自己効力感の向上に役立つものと考えています。」

学校との連携や進学先はどうすればいい?

起立性調節障害の治療において、お子さまが通っている学校と連携をとることはとても大切です。
症状がつらいときに先生が理解してくれないと、お子さまは学校に行く意欲をなくして自宅で過ごすようになり、家族以外とコミュニケーションを取る機会がなくなってしまいます。
不登校の状態になると運動不足にもなりやすく、症状悪化も懸念されます。
そこで、起立性調節障害の症状を学校の先生に伝え、「長時間立っていると血圧が下がって身体に負担がかかるので、朝礼のときなどは必要に応じて座る」「暑いときは症状が出やすいので体育の授業は涼しい場所で見学」などの対応をお願いしておきましょう。
また、学校にいる間に症状が出てつらいときは、いつでも保健室で休める態勢をつくってもらうことも大切です。
「身体がしんどいときはいつでも休憩できる」という安心感があれば、お子さまも安心して登校できます。

保護者自身が抱え込みすぎないためには

起立性調節障害という病気はまだ社会での認知度が高くないため、お子さまを支える保護者のかたはつらさを他人に話せず抱え込みやすいものです。
保護者のかた自身もお子さまも追いつめられないよう、ストレスをコントロールするための取り組みがとても重要です。
趣味の時間を持ったり、ランチに出かけたりして、少しでもストレスを軽減するよう心がけてみましょう。
また、各地域では起立性調節障害のお子さまを抱える家族の会が開催されており、患者の家族同士で悩みを共有したり、症状について顧問医に相談したりできる場合もあります。
「起立性調節障害 親の会 〇〇(お住まいの地域)」などのキーワードで検索してみてください。

まとめ

起立性調節障害(OD)は、症状が外見に現れないうえ、昼過ぎには治まるケースが多いので、周りの理解を得にくいのが難しいところです。 病気にかかった場合、規則正しい生活や十分な水分摂取とあわせて大切なのが、周りとのコミュニケーションです。 「だらしない生活をしているから朝起きられないのではなく、身体の病気なのだ」と理解してもらうことで、お子さまやご家族のストレスはグッと減るはず。 積極的に情報収集をおこない、周囲の協力を求めながら、根を詰めすぎずに病気と付き合っていきましょう。
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